(前編からお読みください。今日は前編の「答え合わせ」です。)
ユングが元型として取り上げたもののうち、特に重要なものは、
ペルソナ(persona)、影(shadow)、アニマ(anima)、アニムス(animus)、
自己(self)、太母(great mother)、老賢者(wise old man)と名付けられるものである。
(河合隼雄(著)河合俊雄(編)『ユング心理学入門』 岩波現代文庫)
高校の模試で引用されていた河合隼雄さんの論文には、こうした専門用語が出てくることはありませんでした。
ですから、河合隼雄さんと、漫画「封神演義」の繋がりに気付いたのは、
私が大人になり、河合隼雄さんの「専門書」を読むようになってからのことです。
日本人で初めて、スイスのユング研究所でユング派分析家の資格を取得したのが、河合隼雄さんだそうです。
おそらく「封神演義」の作者の藤崎竜さんも、河合さんの著書を通して、ユング心理学を学んでいたのではないか、と思われます。
また、梨木香歩さんの「裏庭」の巻末の解説を執筆されていたのも、河合隼雄さんでした。
梨木香歩さんはかつて、河合隼雄さんのもとで働いていらしたそうで、
彼女の代表作となる「西の魔女が死んだ」を読み、迷わず出版社へ持っていき、小説家デビューのきっかけを作られたのは、河合隼雄さんだったそうです。
私がそれを知ったのは、梨木香歩さんの本をほぼ読み尽くして、さらに大分経ってからのことでした。
*
「裏庭」もそうですが、「西の魔女が死んだ」も、居場所に悩む少女の物語です。
「西の魔女が死んだ」の主人公『まい』は、物語の冒頭で、
「わたしはもう学校へは行かない。あそこはわたしに苦痛を与える場でしかないの」
と、学校へ行くことを拒否します。
私自身は、不登校をしたこともなければ、いじめにあったこともありません。
大学で進んだのも、心理学系や、教育学系ではなく、文化人類学系です。
にも関わらず、私は学生時代からこうした問題や、「子どもの心理」に強い関心を持っていました。
明確な理由は自分でも解らずにいましたが、確かに私自身も、人の輪の中に入るのが苦手で、学校社会を「しんどい場所」としか思ってこなかったからかもしれません。
高校時代は、勉強に追い立てられる日々と、遅い思春期で心のバランスを崩し、
「不登校になりたい、でもそんな勇気もない」
と机の下で、夜中の三時までしょっちゅう泣いていました。
よって、特に大学生になって以降、私は市の図書館で、「子どもと学校」「子どもの宇宙」などの河合さんの著作を含む、「子ども心理」に関する本をときおり手にとっていました。
そんな中、「西の魔女が死んだ」の、次の一節、
最初、それは、ただの意味をもたない雑多の音の集合のようだった。葉と葉の擦れ合う音や、小枝や葉の落ちる音、遠く車の走る微かな音などの。
けれども、まいの敏感になっているアンテナが、まい自身の制御からわずかに外れて、その雑音の中から勝手に何かの意味を拾おうとした。
そのとたん、気の幹のゴツゴツとした楠や、その向こうの枯れかけた竹、葛の葉の覆っている藪などがひそひそざわざわささやいているような気が、まいにはしてきたのだ。
これによく似た描写を、図書館でたまたま手にした、とある本の中に、見つけました。
そこには、木々や、大気などの、『音』にはならない、さざめく『声』が聞こえることについて、上の一節によく似た文体で書かれていました。
残念ながら、何という本の、どういう文章だったのかは覚えておりません。
ただ、それがあの、WELEDAの創設者でもある、「ルドルフ・シュタイナー」の言葉だ、と書かれていたことだけは確かでした。
梨木香歩さんのエッセイ『春になったら苺を摘みに』(新潮文庫)に、
ミルンの『クマのプーさん』で有名な森に隣接する、シュタイナーの教師養成学校に入りたくて、まず英語が分かるようにならなければと、二十年前、語学学校のはしりであったS・ワーデンにあるカレッジに入学した。
とあったことを思い出し、思わず膝を打ったことを今も覚えています。
*
古い時代の哲学では、世界は四つの元素、すなわち、
火、風、水、地(土)でできていると考えられていました。
(松村潔『完全マスター 西洋占星術』 説話社)
そして、西洋占星術の世界では、
火の星座の、牡羊座、獅子座、射手座は、「直観」
風の星座の、双子座、天秤座、水瓶座は、「思考」
水の星座の、蟹座、蠍座、魚座は、「感情」
地の星座の、牡牛座、乙女座、山羊座は、「感覚」
……をそれぞれ重視していると考えます。
この、直観や感情といった考え方は、河合さんの『ユング心理学入門』にも、
各個人はおのおの最も得意とする心理機能を持っているとユングは考えた。
心理機能とは、種々異なった条件のもとにおいても、原則的には不変な、心の活動形式であって、
ユングはこれを四つの根本機能、すなわち、思考(thinking)、感情(feeling)、感覚(sensation)、直観(intuition)
に区別して考えた。
と書かれており、上で引用した占星術の専門書によれば、
心理学と占星術を結びつけるのに重要な役割をしたのは、心理学者のC・G・ユングです。
彼は心理分析や性格分析に「アーキタイプ(元型)」と呼ばれる概念を利用することを考えました。
そして、このアーキタイプという概念は、占星術に利用されているさまざまな象徴と関連が深いので、ユング自身も占星術に関して調査をしたようです。(『完全マスター 西洋占星術』)
だそう。
実際、個人天体が『水』と『地』の星座に偏っており、
『火』には射手座の天王星と海王星という社会天体しか持たない私には、
河合さんの著書を読み進める中でも、何より「直観」の項目が最も理解しがたかったです。
しかし、太陽や火星を火の星座に持つうちの父が言う、
「父ちゃんだって、根に持ってるんだぞ。忘れたけど」
という訳の分からない台詞が、
筆者は、かつて典型的な直観型のひとがあるひとの話を聞き、
「あなたのいうことはよく理解できないが、ともかく全面的に賛成です」
というのに出会ったことがある。(中略)
このような場合、ともかく結論の正しさが第一なのである。
という心理から生まれるものなのだと、河合さんの本を読んで、ようやく理解出来た思いだったのでした。
*
少年ジャンプに連載されていたごく普通の少年漫画と、
ただただ、どうしようもなく惹かれて心酔した心理学者、
そしてやはり同様に心をとらえて話さなかった小説家、
己の倫理観にしたがって選んだ、生活用品の土台となる哲学、
そして、自らが生まれもった、星の配置。
これらがすべて繋がる。
示し合わせのように、仕組まれていたかのように。
それは、自身の「無意識」が為したことなのか、
あるいは、人間の力が及ばない、遠い場所の何かが導いた、『必然』なのか。
「意味のある偶然の一致」を、ユングは重要視していて、これを因果律によらぬ一種の規律と考え、非因果的な原則として、同時性の原理なるものを考えた。
つまり、自然現象には因果律によって把握できるものと、因果律によっては解明できないが、意味のある現象が同時に生じるような場合とがあり、後者を把握するものとして、同時性(シンクロニシティ)ということを考えたのである。
(『ユング心理学入門』)
「シンクロニシティ」の概念を生み出したユングそのものが、私にとってのシンクロニシティ、
つまり「意味のある偶然の一致」です。
それがどんなメッセージをもち、私をどこへ運ぶためにぐるり、ぐるりと繋がっているのか、その答えはまだ分からない。
けれど、風に乗ってやってくるシグナルや、秘密のささやき。
それらに注意深く耳をすませていれば、『ただの偶然』ではなく、
『出会うべくして出会った約束』が、日々の中にたくさん隠されていることに、気付けるのでしょう。
謎解きの旅は、まだまだ終わりそうにはありません。
きっと、私が死ぬまで、ずっとつづくのかもしれません。
(おわり)
* * *
……ところで、この記事を書くために、いろいろと調べていたら。
なんと、「封神演義」の外伝が、およそ20年ぶり(ひえー!)に出版されていたことが発覚。
……ていうか、私……それ……夢で見たよ! ホントだよ! 戯言じゃないよ!
封神演義って、最終章が結構納得いかなくて、
「あの後、弟子たち(スープーと武吉)と再会できたの、してないの!?」
ってもやもやのまま終わってたんですよね。
だから、「最終回のその後を補完するスピンオフがジャンプ別冊に掲載!」って夢を割とつい最近見て、目が覚めたときに、
「私は20年近く、あの最終回に納得がいってないのか?」
って首を傾げたの、覚えてるよ!
うーん、再アニメ化に絡めて、どこかで情報見たのかなぁ〜。
でももしそうだったら、情報追っかけてそうだしなぁ〜。
……いや……これは……私……エスパーになった……!?
……でもこないだの堺雅人の件もだけど、どうせ見るなら、もっと実用性の高い予知夢がいい……
* * *
<もういっちょ、おまけ>
残念ながら河合隼雄さんは2007年にこの世を旅立たれており、私はお会いすることは出来ませんでしたが、
実は、河合さんの甥っこさんに、お会いしたことがあります。
河合さんの甥っ子さんは、私の大学時代の恩師の友達だったのです。
その日、私は件の「労働者戦争」で仕事を辞めることになったいきさつを話しに恩師の研究室に行ったのですが、
その場に居合わせられた甥っ子さんにまで、自分で描いた、社長たちの似顔絵を見られ、
「この人を怒らせると、こんな似顔絵を描かれるんですね〜」
と笑われたのでありました……。
(今度こそ、おわり)
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関連リンク(今日登場した、シンクロニシティ関係者の皆さん)
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